映画:「かぐや姫の物語」(考察その3)

 

考察その2の続きです。

 

東映動画時代の企画

企画書ではしきりに「隠されているはずの挿話を掘り起こす」、「かぐや姫の本当の物語を探り当てる」と書かれている。「隠された挿話」が何かを探るまえに、東映動画時代の企画をおさらいしておく。当時のコンセプトはざっくり次のようなもので、当時この企画は面白くなる確証はなく、会社へ提出しなかったそうだ。

 

姫は地球から帰還した女(羽衣伝説の一人)から地球のことを聞いて、彼の地に憧れる。禁を破って帰還女性の記憶を呼び覚ましたことが発覚し、姫は、地上の思い出によって女を苦しめた罪を問われる。そして罰として、姫は地球におろされることになる。みずからもその穢れた世界で苦しむようにと。姫が「死んでしまいたい」「こんなところにいたくない」とかのテレパシーを送ってきたならば、その時点で地球が穢れた世界であることを姫みずからが認めたのだから、罪の償いが終わったものとして、直ちに迎えを差し向けること。お迎えが来る時点であれほど激しく嘆き悲しむのは、自分が「何のために来たのか」が自覚されてきて、地上のすばらしさを満喫することのないまま、そしてみずからの「生」を力一杯生きることのないまま、帰らなければならなくなってしまったことを悔やむ涙だった…。*1

 

これを読むと、大きな枠組みは当時のまま「かぐや姫の物語」に使われていることがわかる。

 

・「隠された物話」とは

東映動画時代の企画は「罰」としてどのように苦しむか、なぜ帰りたいというテレパシーを送ることになるのか、具体的な物語の中身はまだ書かれていない。その中身がしきりに言及されている「隠された物語」である。

 

もしこれが真相だったとすると、『竹取物語』には「隠された物語」が内包されているはずである。それを運良く探り当てることができれば、物語の基本の筋書きは変えることなく、また、そのときどきのかぐや姫の感情もそのままに、面白くてかなり今日的な物語を語ることができるのではないか。そしてかぐや姫の気持ちを、その悲劇を、より切実なものとして訴えることができるのではないか。それはとりもなおさず、地球に生を受けたにもかかわらず、その生を輝かすことができないでいる私たち自身の物語でもありうるのではないか。*2

 

「隠された物語」とは映画全般にわたり繰り広げられる姫の物語である。「竹取物語」では姫の物語は積極的に描かれていない。あえてそれを描くことで、人類の悲劇を浮き彫りにする。これが「竹取物語」を現代によみがえらせる意義であり、原作を換骨奪胎した理由でもあり、罪と罰というテーマを暗示にとどめた理由でもある。

 

考察その4に続く

 

考察その1

考察その2

考察その3

考察その4

 

*1:企画書要約&抜粋

*2:企画書抜粋